サブちゃん物語

第1話

 川の流れと人の世は、淀みもあれば、淵もある。

 北島三郎がデビューして、早や五十年の歳月が流れた。年号も昭和から、平成へと移り、私たちの暮らしもかつての生活からは想像もつ かないくらいに変わった。人は宇宙へと飛び立ち、コンピュータ情報が瞬時のうちに世界を駆け巡り、流行り廃りの時は、早い…。しかし、移ろいやすい世 の中にあって、「サブちゃん」は、多くの人に支えられて、変わらぬ人気と着実な歩みを残している。

 北島三郎、本名 大野穰。昭和十一年十月四日、北海道上磯郡知内村に生まれる。

 小さな村の半農半漁の家に五男二女の長男として生まれた穰少年は、祖父の「江差追分」を子守歌にすくすくと育っ た。身体は小さかったが、目のクリクリとした可愛い子で、人なつっこさは近所でも評判。しかし、負けん気の強さは人一倍だった。戦争の影が深まり、その爪 痕が残る頃に生まれ育った彼は、ニシン漁も最盛期を過ぎ、不景気の波に洗われる中で網元として隆盛を誇っていた家も没落。手伝いが出来る年頃になると、幼 い弟妹の面倒を見ながら、一端の働き手として漁に出る父の手助けにかりだされ、畑仕事の母を助けた。

 穰少年が中学三年の正月、中学の担任が訪ねて来た。「穰君を函館の高校に進学させてくれませんか?折角勉強ができるのに、惜しいと思います。」当時、知内から函館の高校へ進学する生徒は、ごく限られていた。大野家では、苦しい生活のことを考えると猫の手も借りたい気持ちであったが、 我が子の将来を考えて、高校へ進学させることにした。

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